
「30年後も、うちの会社は続いているだろうか?」
ふと、そんなことを考える瞬間はありませんか。感染症の拡大、気候変動、物価の上昇、働き方の変化……社会が大きく揺れる中で、「この先どう経営していけばいいのか」と悩む場面は確実に増えています。
そんな時代に、ひとつのヒントとして世界中で注目されているのが「B Corp™︎(ビーコープ)認証」です。B Corpの「B」はBenefit(恩恵)。顧客はもちろん、社員やその家族、取引先、地域社会、地球など、会社を取り巻くあらゆる関係者に良い影響をもたらす企業を評価・認証する仕組みです。そしてこうした企業同士がつながり、社会をより良くしていくムーブメントも広がっています。
この連載では、架空の社長の声を元に、B Corp認証の専門家・岡望美と中小企業経営の専門家・藤原彩香が対話を通じて、「30年後も愛される会社」をつくるヒントを探っていきます。
「うちの会社でもできることはあるだろうか?」
そんな視点で、気軽に読み進めていただけたら嬉しいです。
第2回 「働きやすい職場ってなんだろう?」
■社長のモヤモヤ
👤(製造業・年商20億/創業40年・2代目社長/52歳・福井県)
経営をしていると、「人」の悩みは本当に尽きません。
特に最近は、地方の会社ほど若い人の確保が難しくなっていると感じます。
まず、そもそも応募が来ない。
来てもらえたとしても、3年くらいで辞めてしまうことも多い。
そこで経営相談に行くと「働きやすい魅力的な職場をつくりましょう」とよく言われます。
ただ、いざ取り組もうとすると悩んでしまいます。
例えば、「子育て世代にやさしい制度」を考えようとすると、「独身の人はどうなるのか」「介護をしている人はどうするのか」といった声も出てきます。
何が正解なのか、正直よく分かりません。
どうしたら、人が集まって、長く働いてくれる会社になるのでしょうか。
若者が求めるのは結局、高給?働きがい?
マイナビによる大卒の就職活動中の調査では、企業選びで「安定している会社」「給料の良い会社」を重視する学生の割合が増え、20年前は比較的多かった「自分のやりたい仕事ができる会社」を重視する割合は減少傾向にあります。
こういうデータを見ると、結局、若い人は安定や待遇を重視していて、「大手には勝てない…」と感じてしまう経営者の方も多いかもしれません。

新型コロナウイルスの影響や物価高、「頑張って働いてもなかなか生活が楽にならない」という空気感の中で育ってきた世代だからこそ、「安心して働けて、給料もしっかりもらえるか」を重視するのは、とても自然なことだと思います。
一方で、入社直前直後の新卒社員を対象とした調査では、就活時を振り返って重視していたものとして答えているのは、「職場の人間関係」や「仕事内容」、「自分らしさを発揮できること」などです。
つまり、第一印象としての会社の安定・安心感は大切ですが、実際にその職場に入った時には「自分らしく前向きに働けるか」が重視されているようです。

この「自分らしく前向きに働ける職場」を実現するためには、まず従業員が力を発揮できるような「働きやすい」環境を土台として築く必要があるんですよね。
ところでこの「働きやすさ」って、本来とても個人的な感覚のものですよね。ある人にとっては「働きやすい」と感じる環境でも、別の人にとってはそうではない、ということもあります。
つまり、「働きやすい職場」の正解って、一つではないんです。
そして同じ人でも、入社前・入社直後・子育て期・キャリア形成期など、人生のフェーズによって、働き方に求めることも変わっていきますよね。
だからこそ「これをやればOK」という万能な正解を探すよりも、実際に働いている人たちの声を聞きながら、小さく改善を積み重ねていくことが大切なのだと思います。
「一般的に良いとされていること」をそのまま取り入れるのではなく、自分たちの会社にとって、そして、そこで働く一人ひとりにとって、どんな状態が「働きやすい」と言えるのかを、丁寧に見ていくことが「働きやすい職場」を実現するための鍵なんだと思います。
でも、そうなると逆に、「みんなにとって良い状態」をどうやってつくればいいのか、ますます難しく感じてしまいそうですね。
多くの経営者の方が、まさにそこで悩まれるんですよね。
「できるだけみんなに平等に」と考えるほど、かえってうまくいかなくなってしまうこともあります。実はここに、「働きやすい職場」を考える上での、大切なヒントがあるんです!
「みんな同じ」でいいの?― 平等と公平のちがい
「できるだけみんなに平等に」と考えるほど、かえってうまくいかなくなることがある。
それって、どういうことなんでしょうか?
はい。ここでよく出てくるのが、「平等」と「公平」という考え方の違いです。
平等というのは、全員に同じ条件や機会を与えること、一方で公平というのは、一人ひとりの状況に応じて、必要なサポートや機会を整えることを指します。
最近は学校教育でも、「みんな同じ」ではなく、一人ひとりに合わせた考え方が重視されるようになってきていますよね。
ただ一方で、一人ひとりの状況に合わせた対応自体は、逆に「不平等だ」という声も出やすいテーマですよね。
そうですね。平等だけでは解決できないこともあるんです。
「平等」と「公平」の違いをわかりやすく示している下のイラストをご覧ください。
同じ高さの台に全員が立つことを「平等(EQUALITY)」とすると、背の高い人はよく見えるけれど、背の低い人は見えないかもしれません。
一方で「公平(EQUITY)」は、それぞれの身長に合わせて台の高さを変えるイメージです。
そうすることで、みんなが同じように前を見ることができる。

interactioninstitute.org madewithangus.com
職場でも、実は同じことが起きているんです。
例えば、勤務時間。
〈全員が同じ時間に出社して、同じ時間に退社する〉
一見すると、とても平等な勤務制度ですよね。
でも、子育て中の方にとっては、保育園の送り迎えの時間と合わず、それだけで働き続けることが難しくなってしまうことがあります。
勤務時間を少し柔軟にすることで、その人が無理なく働き続けられるようになり、結果として会社の中で力を発揮できる可能性も高まります。
子育ての話は比較的イメージしやすいですよね。
国としても少子化対策を進めていますし、法制度も少しずつ整ってきています。
ただ、実際には事情って本当に人それぞれで、介護や通院、地域活動、趣味など、置かれている状況はみんな違います。
だからこそ、「子育てばかり優遇されている」という声が出てしまうこともありますよね。
そこで職場でも、みんながおたがいさまであることを理解できる雰囲気も大事だと思います。
例えば、パタゴニア創業者の本『社員をサーフィンに行かせよう』では、「いい波が来たらサーフィンに行っていい」という話が紹介されています。
おもしろいのは、単に自由な会社という話ではないところなんです。
いい波というそのタイミングはいつ来るかわからない。
そんな時に誰かが抜けても、お互いに支え合える。
自分が助けてもらったら、今度は誰かを支える。
そんな関係性があるからこそ、急な子どもの発熱や介護など、予想外の出来事にも対応できる。
「おたがいさま」が自然に回る職場って、すごく理想的ですよね。
その通りですね!
ここで大切なのは、制度を「つくること」だけではなく、それを実際に「使える状態」にしていくことなんだと思います。
例えば、有給休暇も、制度としては平等に全員へ与えられていても、「周りに迷惑をかけそうで休めない」「部署によって取りやすさが違う」ということは、現実にはよくありますよね。
だからこそ、業務を属人化させすぎないようにしたり、お互いにフォローし合える体制を整えたりしながら、「実際に安心して使える状態」をつくっていくことが大切なんです。
公平というのは、特別扱いをすることではなく、それぞれが力を発揮できる環境を整えていくことなんですよね。
「働きやすい職場」というと、どうしても「ラクに働ける職場」のように聞こえてしまうこともあります。
でも本来は、障壁を減らし、必要なサポートを整えることで、一人ひとりが能力を発揮しやすくなる状態を目指すことなんですよね。
だから制度だけではなく、日頃から対話できる空気や、「困った時はお互いさま」と言える関係性も、とても大切なんだと思います。
本当にそうですね!
実際に働いている人たちが、どんな時に働きづらさを感じるのか。
どんな支えがあると力を発揮しやすいのか。
そこに丁寧に耳を傾けながら、会社として少しずつ形をつくっていくことが大切ですね。
そして、その積み重ねが、結果として「この会社で働き続けたい」と思える職場につながっていきます。
魅力的な職場、どう実践する?― B Corp企業のヒント
とはいえ、実践しようとすると、やっぱり難しさも感じますよね。
関係者一人ひとりに目を向けていくと、それぞれに違った事情や想いがあって、「どこまで応えればいいのか」と悩んでしまう経営者の方も多いと思います。
ここで大切なのは、すべてに完璧に応えようとすることではなくて、「会社として、どこに向き合うのか」という柱も同時に持つことだと考えています。
B Corp認証企業さんは、どのように実践されているのでしょうか?
例えば、100年企業の木村石鹸工業株式会社は、自己申告型の給与制度に見られるように、管理や制度で従業員を縛るのではなく、社員の主体性と内発的動機を最大化させることを第一としています。
業績の厳しい時こそ社員の幸せを一番に想う、「ほなら、もっと給与上げたらなあかんな」という考え方はとても勉強になります。
他にも、国際情勢や政策の動きを可視化し次の企業戦略に繋がるようなツールを開発している株式会社オシンテックでは、自律分散型の組織運営を行っています。
採用時には履歴書の提出を求めたことが一度もないそうですが、飾った過去の業績に基づく役割配置ではなく、「どうすれば人が力を発揮できるのか」を、自分たちなりに問い続けながら制度をつくっています。
その実践内容はガイドブックとして公開されており、誰でも参考にすることができます。
もう1つの100年企業の印刷会社株式会社羽車では、出産後の復帰率9割という実績をはじめ、シルバー人材の活躍や、充実した研修制度など、多様な人が働き続けられる制度を整えているのはもちろんのこと、職人と若手の混成が生み出す組織文化を醸成し、結果として高い顧客評価にもつながっているそうです。
どの会社さんも、「働きやすさ」を特別な福利厚生として切り離して考えるのではなく、日々の経営の中に自然に組み込まれているのが印象的ですね。
そして、「どんな会社でありたいか」というビジョンとつながっているからこそ、制度そのものではなく、会社の魅力として伝わっているのだと思います。
B Corp認証企業さんの取り組みを聞くと、「うちみたいな会社では難しそう」と思われる経営者の方もいらっしゃるかと思うのですが、最初から完璧を目指す必要はなくて、 まずは目の前の従業員さんの声を聞いてみる。小さく試してみる。対話しながら少しずつ育てていく。
そして、自社に合った取り組みを模索し続けていくのだという姿勢で向き合ってみていただきたいですね。
しかも、人の問題って「これをやれば正解」というものがない、まさに“3歩進んで2歩下がる”の連続です。
B Corp認証企業の中にも、研修制度を充実させた結果、人が育ちすぎて独立ラッシュになってしまったり、ビジョンに合わせて制度や事業を大きく変えたことで、これまでいた人が離れてしまったりということも実際にあります。
もちろん経営としては苦しい時もありますが、それでも「人を大切にする」という軸を持ち続けながら、試行錯誤を続けているんですよね。
中小企業だからこそ、できること― 「顔が見える」強みを活かす
本当に、人に関わることって簡単ではないですよね。
うまくいくことばかりではないですし、人が相手だからこそ、悩む場面もたくさんありますよね。
でも、そうやって試行錯誤しながら、「この会社で働けてよかった」と思える関係性を育てていくこと自体に、会社の価値があるのかもしれません。
特に中小企業は、顔が見える距離感でそれを実践できる存在だと思っています。
実際、B Corp認証を取得している企業には、中小企業がとても多いんです。
大企業のほうが取り組みやすそうに見えますが、実は逆で、組織が大きいほど制度変更や文化変革には時間がかかります。
その点、中小企業は、経営者の想いや判断が現場まで届きやすい。
「こういう会社にしたい」が、日々の経営に反映されやすいんですよね。
本当にそう思います。
中小企業って、良い意味で融通が利くんですよね。
例えば、「このやり方、ちょっと合ってないかも」「こうしたほうが働きやすいかも」という声が出た時に、すぐ話し合って変えてみることができる。
これって、実はすごく大きな強みだと思うんです。
あと、人数がそこまで多くないからこそ、誰かが困っている時に周囲が気づきやすいですし、「おたがいさま」の空気も育ちやすい。
制度だけではなく、そういう日々の関係性や空気感が、働きやすさをつくっている部分も大きいですよね。
そして、「働きやすい職場」を考えていくと、結局は、一人ひとりの違いに向き合うことでもあるんだと思います。
子育て中の人。
介護をしている人。
バリバリ働きたい人。
自分のペースを大切にしたい人。
みんな違うからこそ、“同じ”を目指すだけではなく、違いを認め合いながら、一緒に働ける会社をどうつくっていくのか。
そこが、これからますます大切になっていくと思います。
■まとめ ~今日からできる小さな一歩~
「働きやすい職場ってなんだろう?どうしたら人が定着するんだろう?」
→「みんな同じ」ではなく、一人ひとりに目を向けることで、働きやすさのヒントが見えてくる
📍データだけでなく、従業員一人ひとりの想いや困りごとを聴く
📍完璧を目指しすぎず、できることから小さく試してみる
📍対話を重ねながら、うまくいかなかったことも“失敗”で終わらせず、自社に合う形を探していく







