「30年後も、うちの会社は続いているだろうか?」
ふと、そんなことを考える瞬間はありませんか。感染症の拡大、気候変動、物価の上昇、働き方の変化……社会が大きく揺れる中で、「この先どう経営していけばいいのか」と悩む場面は確実に増えています。
そんな時代に、ひとつのヒントとして世界中で注目されているのが「B Corp™︎(ビーコープ)認証」です。B Corpの「B」はBenefit(恩恵)。顧客はもちろん、社員やその家族、取引先、地域社会、地球など、会社を取り巻くあらゆる関係者に良い影響をもたらす企業を評価・認証する仕組みです。そしてこうした企業同士がつながり、社会をより良くしていくムーブメントも広がっています。
この連載では、架空の社長の声を元に、B Corp認証の専門家・岡望美と中小企業経営の専門家・藤原彩香が対話を通じて、「30年後も愛される会社」をつくるヒントを探っていきます。
「うちの会社でもできることはあるだろうか?」
そんな視点で、気軽に読み進めていただけたら嬉しいです。

第1回 「目の前のことで精一杯……それでも社会のこと、考えないといけない?」 

■社長のモヤモヤ
👤(製造業・年商20億/創業40年・2代目社長/45歳・滋賀県)

正直、日々の経営で手一杯です。
原材料も上がるし、人もなかなか採れないし、先のことを考える余裕もない。
でも最近、戦争や物価高、地球環境のこととか、いろんなニュースを見るたびに、「うちの会社、このままで本当に大丈夫なんだろうか」と不安になることも増えてきました。
社会の課題に向き合うことが大切なのは分かるけれど、正直、コストもかかりそうだし、儲かるのかも分からない。
何から始めればいいのかも見えなくて、なかなか一歩が踏み出せないんです。
ただ、うちはこれまで地域に支えられてやってきた会社ですし、「三方よし」の考え方にも、どこかしっくりくるものはあります。
だからこそ、これから先のことを考えると、社会のことも無視できない気がしていて……。
でも、うちの規模で、何から手をつければいいんでしょうか? 

何のためにこの事業を続けてきたのか? 

 「何から手をつけたらいいのか分からない」という時、ひとつの方法として、いろいろな“ものさし”を使って自社の現在地を測ってみると、やるべきことが見えてきたりしますよね。
たとえばSDGsの17の目標を見てみたり、地域の認定制度に取り組んでみたり。
健康経営やエコアクション21などもありますし……。
 私は仕事柄「B Corp認証もありますよ」とお伝えしてしまいますが、こうした枠組みを活用するのは、一つの近道だと思います。
 ※グローバルで展開されているサステナビリティに関する企業認証

 そうですね、それもとても有効な方法だと思います。
 ただ、チェックリストを埋める前に一度立ち止まってじっくり考えてみたいのが、「自分たちの会社は、これまで何を大切にしてきたのか」ということです。
 どんな会社でも、社会に価値を提供し続けてきたからこそ、今ここにあります。
 これまでどんな想いで事業を続けてきたのか、どんな価値を届けてきたのか。
 まずはそこを振り返ることが、最初の一歩になることも多いんです。

 B Corpの基準だと、ちょうど1番最初のチェック項目は「パーパスの所在」、つまり「自社が何を軸に、どんな価値提供を社会にもたらすかを明文化しているか」になります。
 ここをしっかり考えるということですね。
 でも「社会への価値提供」って、高齢化とか、資源循環とか、社会課題を解決するために起業したようなスタートアップだったらわかるのですが、BtoBの卸売業やソフトウェア会社、あるいは家業を引き継いだ会社などだと、「うちはそういう(社会貢献型の)事業じゃない」っていう声もあるんじゃないですか?
 現場では「安い・旨い・早い」といった価値を届けることに日々向き合っていて、社会への価値提供って少し距離があるように感じてしまいがちですよね。

 その声、本当によく聞きます(笑)。
「うちはそんな立派な会社じゃないですよ」とおっしゃる方が多いのですが、第三者の視点から見ると、どの会社にもちゃんと“想い”があるんですよね。
 経営者の方と、創業時からこれまでの歩みを一緒に振り返っていくと、「誰かの役に立ちたい」「社会に貢献したい」という想いが見えてくることが多いです。
「身近な人の暮らしを良くしたい」
「もっと便利にしたい、もっと喜んでもらいたい」
そんな気持ちから事業が始まっていることがほとんどです。
 そして、日本の中小企業には、もともと「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」の考え方が根付いていると言われますが、これは事業の根っこに、利他の考えがしっかりある、ということなんですよね。

 ただ、その「世間」の捉え方や置かれている状況は、時代とともに変わってきています。
 これまでは、自社の周辺にいる関係者という、比較的身近な範囲で「世間」を捉えることが多く、それでも十分に成り立っていました。
 しかし、社会が便利になり、さまざまなものを自由に調達できるようになった一方で、事業の影響は、遠くの自然環境や、自社が把握しきれていないサプライチェーンの先まで、広がっています。
 その結果、自社が「世間」として意識している範囲との間にズレが生まれ、そこにひずみが生じているとも言えるのではないでしょうか。

 だからこそ、あらためて問い直すことが大切になってきています。
――自分たちは、何のために事業を続けてきたのか。
――これから、「世間」をどこまで捉えていくのか。

その事業は、誰とつながっているのか? 

 なるほど、三方よしの考え方があるから大丈夫、ではなくて、世間を捉え直し、もしかしたらもう一歩進めて「よし」とは何をもって「よし」とするのかという捉え直しも必要かもしれないですね。
 では、どうやって考えを深めていけばいいのでしょうか?

 次のステップとしておすすめしているのが、「自分たちの事業の関係者を見てみる」ことです。
これはとても当たり前のことのようで、実は見落とされがちなんですよね。
 打ち合わせの中で、「関係者を書き出してみましょう」というワークをすると、最初は取引先や従業員といった言葉がすぐに出てくるのですが、そこで手が止まってしまう経営者の方も多いんです。

 そうなんですか!

 本来、事業というのはたくさんの関係性の中で成り立っています。ただ、サプライチェーンが複雑になっていることもあって、そのつながりが見えにくくなっているのも事実です。
 そこで、自社の商品やサービスが顧客に届くまでに、どんな人や企業、資源、環境が関わっているのかを、一度丁寧に「見える化」してみるんです。

 そうすると、「こんなに多くのつながりの中で、自分たちの事業が成り立っていたんだ」と、驚かれることがとても多いですね。
 この気づきは、とても大きいと思っています。
 関係性に気づくことで、「もっと良い関係にできないか?」という視点が自然と生まれてきます関係者一人ひとりに思いを馳せてみることが、事業に磨きをかけていくための第一歩になるのではないでしょうか。

 思いを馳せられないと、利他も何もないですよね。
 そして実は、この「つながりに目を向ける」という考え方は、B Corpの背景にある思想とも深く関係しています。

 B Corpの認証を運営しているB Lab™︎は、「企業は株主だけでなく、すべてのステークホルダーに対して責任を持つべき存在である」という考え方を大切にしています。その背景にあるのは、社会の中で起きているさまざまな「分断」への問題意識です。

 経済と地球環境、企業と地域、利益と人権。
 本来つながっているはずのものが切り離されて考えられてきた結果、さまざまな課題が生まれてきました。
 だからこそB Lab™︎は、企業がその「つながり」を取り戻し、すべての関係者にとってより良い社会をつくっていくことを目指しています。
 B Corpの認証を受ける全企業はこの「つながり」を意識することを約束する「相互依存宣言」にサインをします。

B Corpたちが署名をする「相互依存宣言」

 B Corpの背景にある思想でも「つながりに目を向ける」ということが大切にされているのですね!

 そしてB Corpたちは各々のかたちと言葉で、「つながり」を捉えています。

 たとえば、株式会社morning after cutting my hairという会社が手がけるSOLIT!というプロジェクトにおけるステークホルダーマッピングでは非常に多くの関係者を洗い出しています。

SOLIT!ウェブサイトより引用

 スタートアップとして急成長を遂げる株式会社SANUの2024年版の活動報告書には、関わる主体が様々な形で表現されています。
 翌年のレポートではそれぞれとの対話からより良いビジネスのあり方を模索していることが読み取れますが、こうした会社はどんどん進化していくので、その過程を追うことができるのは勉強になりますね。

SANU Regenerative Action Report 2024より引用

 長野県の山の中にあるパンと日用品のお店を運営する株式会社わざわざでは、誰にとっても「大体ちょうどいい」を目指しています。それは行き過ぎた「滅私奉公」でもなければ、誰かの我慢を強いるものでもない。
 つながっている主体同士の関係性を見つめ直すことで、何かが見えることもあるかもしれないですね。

わざわざウェブサイトより引用

つながりの先にある「困りごと」とは?

 「つながりに目を向ける」と、ほぼ必ずと言っていいほど、それぞれの関係者が何かしらの課題を抱えていることに気づきます。
「関係者を書き出してみましょう」というワークをしたあとに、その一人ひとりが今どんなことに困っているのかを一緒に整理していくのですが、そうすると、「こんなにいろんな課題があったのか」と驚かれることが多いんです。
 たとえば、ある企業さんと取り組んだときのことです。
 関係者を洗い出していく中で、チョコレートの原料となるカカオ豆の生産者の存在が見えてきました。
 では、その生産者はどんな課題を抱えているのか――。
 少し掘り下げてみると、さまざまな現実が見えてきます。
 カカオの国際価格は変動が大きく、安定した収入を得ることが難しい。
 そのため、十分な生活が成り立たず、子どもが働かざるを得ない状況(児童労働)が生まれてしまうケースもあります。
 また、気候変動の影響で収穫量が不安定になったり、森林伐採が進むことで環境への負荷が高まっていたりと、生産の背景にはさまざまな課題が複雑に絡み合っています。

 素晴らしい分析ですね。
 「エシカル」のアンテナが高い藤原さんがついていたからこそ、ここまで困りごとについて考えることができたのだと思いますが、ポイントは、常識や思い込みを取り払って、なんでも疑問視してみることでしょうか。

 よく環境問題や社会課題を深掘りしようとすると、「自分は勉強不足なので……」と謙遜しつつ、それが免罪符のようになってしまっていることがあるような気がします。
 困りごとを深掘りするのに専門知識はなくてもいいんです。
 真摯に向き合ったり、声を聞いて考えたりすることが大事ですよね。
 温浴サロンを展開する株式会社テーブルカンパニーは、もともと高品質のサービスを求めて原料調達先に通っていたなかで、「エコな取り組みという勘違いと自己満足に気づき、本当の意味で森とつながることの大切さを理解した」と振り返っています。
 ※「サロンから山林へ|私が発酵温浴で見つけた循環のかたち。」より引用

その困りごとを事業を通じて解決できるか?

 とはいえ、やはり関係者の「困りごと」を整理してみると、あまりに広範で多様なこともあって、「自分の会社に何ができるんだろう」と、途方に暮れてしまう経営者の方も多いです。
 ただ、ここで大切なのは、それを「大変だな」で終わらせるのではなく、事業のヒントとして捉えることだと思っています。
――その課題に対して、自分たちの事業としてどう関わることができるのか。
――どうすれば、より良い関係性を築いていけるのか。
そこを考えていくことが、難しさでもあり、同時におもしろさでもあるんですよね。

 社会貢献というと、どうしても寄付やボランティアのイメージが先行しますよね。
 もちろんそういう手段を通じて社会に還元していくことも1つの形です。
 それを「余裕があったらやる」というものではなく、事業そのものに組み込んでしまえば毎日社会に貢献できますし、何十年と時を経ても自信と誇りを持って仕事をし続けられます。
 世間が右に左に揺れ動くなかでも、その世間との関係性を捉え、対話し続け、貢献の輪を広げていれば、変化の兆しをキャッチでき、むしろ変化の渦の中心に身を据えることができるのではないでしょうか。
 このブルーブラックマガジンの「ソーシャルバリューをデザインする」第1回では、マテックス株式会社がまさに「本業のど真ん中で社会課題に取り組む」ことを目指した経緯、そしてその結果、短期的な価格競争から長期的視点で経営することの重要性を見い出した経緯が紹介されていますね。

 まさに、本業のど真ん中で社会課題に向き合っていく、という視点が大切ですよね。
 一方で、実際に関係者の課題を見ていくと、その範囲はとても広く、「すべてに応えようとすると、何から手をつければいいのか分からない」と感じる経営者の方も多いです。
 関係者の課題は多岐にわたり、すべてに一度に応えるのは簡単ではありません。
 そんなときは、もう一度、冒頭でお話しした「自分たちは何を大切にする会社なのか」という軸に立ち戻ることが大切ですよね。
 その軸があることで、どこに力を注ぐべきか、どの課題に向き合うべきかが見えてきます。
 今のように先行きが見えにくい時代は、どの選択が正解なのか判断に迷う場面も多いですが、軸があることで、意思決定はぐっとしやすくなります。
 また、多様性が重視される時代においては、働き方や価値観も人それぞれです。
 だからこそ、やり方は違っていても、「どこに向かうのか」という方向性だけは揃っているという状態をつくることが重要だと思います。
 そして、その“進む方向”を言葉にしたものが、「パーパス」だと言えるのではないでしょうか。

 皆が同じ方向を進んでいくための合言葉のようなものですよね。
 社内はもちろんのこと、自社の中だけで完結するのではなく、取引先やパートナーと共有していくことで、より大きな価値につながっていく可能性がありますよね。
 そしてB Corpの基準でも、パーパスを「掲げる」だけでなく実践するための仕組みが重視されています。
 たとえば、ステークホルダーと対話する機会を定期的に設けたり、パーパスに基づく定量的・定性的な目標を設定し、それを経営目標と同じように追いかけたり。
 場合によっては、達成度が役員報酬に反映されるような仕組みを取り入れている企業もあります。
 また、どんな取り組みをしてきたのかを外部に向けて発信することも求められます。

 パーパスを“忘れないための仕組み”をつくることが大切なんですね。
 実際、せっかくパーパスを掲げても、社内に浸透しなかったり、具体的な行動につながらなかったりして、形だけになってしまうケースも多いと感じています。
 また、良い取り組みをしていても、それを外に発信できていない企業さんも多いですよね。

 レポートという形にするとハードルが高く感じるかもしれませんが、必ずしも形式にこだわる必要はありません。
 たとえば、報告会のような形でもいいですし、「毎年これをやる」というのを社外も巻き込んで決めてしまうことで、やらざるを得ない状況を作り、結果的に継続できます。
 石井造園株式会社では「CSR報告会」という形で地元地域の方を招待し、緑化基金の贈呈や社長のパフォーマンス評価などを行っています。

石井造園のCSR報告会

 東陽電気工事株式会社では「経営方針発表会」という形で同じように地元地域の関係者を招き、社長が前面に立つのではなく新入社員含めた社員自身が活動をまとめて発表するというスタイルを取っています。

 なるほど。
 完璧な形を目指すよりも、まずは続けられる形で取り組みを始めることが大切なのかもしれませんね。外に発信する場を持つことで、自分たちの取り組みを振り返るきっかけにもなりますし、結果的に社内外の意識をそろえていくことにもつながりそうです。

まとめ ~今日からできる小さな一歩~
「目の前のことで精一杯……それでも社会のこと、考えないといけない?」
→社会のことを考えることで、むしろ目の前の精一杯から自社を解き放つ
📍まずは、自分たちの会社のこれまでを振り返ってみる
📍どんな人たちと関わっているのかを整理し、その人たちの困りごとに目を向ける
📍その困りごとを自社事業で解決できないか考えてみる
📍それを言葉にして発信しながら、実践し続け、周囲と協力できる仕組みを作る


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第1回 「目の前のことで精一杯……それでも社会のこと、考えないといけない?」 

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