
商店街の衰退が叫ばれて久しい。郊外に進出した大型店との競合とそれに伴う中心市街地の空洞化、少子高齢化と人口減による商圏人口の減少、経営者の高齢化と後継者難など、その背後にある要因は日本の社会全体が直面している課題そのものだといえよう。商店街の活性化や再生に向けての模索が各地で続いているが、補助金を中心とした振興策には限界があり、商店街の役割や可能性そのものを見直す動きが広がっている。
そうした中、商店街支援とは無縁だったプレイヤーたちが、商店主や商店会とともに新たな可能性を掘り起こすケースが増えている。
マーケティングプランナーとして活動してきた著者もそのひとり。本連載では、商店街に飛び込んで異彩を放つプレイヤーを訪ね歩き、どんな化学反応から何が生み出されたのか、商店街の未来像を探る。
第15回 教室は商店街! 地域と学校がつくる新しい学びのカタチ タワービュー通り商店街 村方龍太さん 錦糸小学校 上田智恵子教諭
明暦の大火から生まれたまち
JR総武線、東京メトロ半蔵門線が乗り入れる錦糸町駅から2分ほど歩くと、真っ正面に東京スカイツリーが現れる。またとない絶景のお膝元にあるのがタワービュー通り商店街(東京都墨田区)だ。
まちの起こりは、江戸時代初期にさかのぼる。1657年(明暦3年)の明暦の大火で、江戸城をはじめ江戸の町の大半を焼失した大災害に見舞われた。江戸中心部で被災した武家屋敷や神社仏閣などを新しく建てる場所として墨田区周辺にも新しい街並みが築かれた。碁盤の目のような町割りが敷かれ、東西南北に延びる運河も整備されて、錦糸町は物流の拠点としても発展。明治時代になると、総武鉄道の駅が置かれ物資の輸送を担ってきた。


夜店通り地蔵会からタワービュー商店街へ
「タワービュー通り商店街」は、かつて「夜店通り地蔵会」として活動していた。商店街があるタワービュー通り近くには、江戸時代から続く霊性院がある。お寺にはお地蔵様が祀られ、4のつく日にはたくさんの夜店が並んでいた。平成の終わり頃に活動が縮小し夜店通り地蔵会は解散したが、その後、コロナ禍の最中2020年10月に新たにタワービュー通り商店街として再スタートをしている。現在、タワービュー通り商店街の会長を務める村方龍太さん(49歳)は二代目だ。
夜店通り地蔵会時代には、地域密着の個人店が多かった。青果店に鮮魚店などの専門店も数多くあったが、大型の商業施設が立ち並ぶようになると個人店はだんだんと店を閉じた。今は、定食や居酒屋など夜の利用が大半だ。
現在13店が加盟する商店街の活動も、単独では限りがあった。錦糸町北口エリアはカバーする地域が広く、ひとつひとつの店を紹介することもなかなか難しい。そこで、同じ錦糸町駅北口で隣に位置する太平町商店会にも声を掛け、共同で加盟店を知ってもらう取り組みをしたいと相談した。北口エリアには、錦糸小学校など学校も多い。地域密着で子どもたちと一緒に何かやりたいと村方さんたちは考えていた。
商店街と地域・学校との連携のはじまり
そんな2024年に、タワービュー通り商店街の中にある錦糸小学校から、子どもたちが授業でつくった「出汁(だし)の取り方」というリーフレットを商店街の店頭に置かせてもらえないかという話が舞い込んだ。子どもたちは総合的な学習の時間で、海外にルーツを持つ住民が多いこのまちで日本文化を伝えようと、出汁の取り方を四カ国語で書いたパンフレットを制作したのだ。
錦糸小学校で当時6年生の担任を務めていた上田智恵子教諭(以下上田先生)が、小学校の学習でつながりがあった店に、「商店街のお店にリーフレットを置かせてほしい」と出向いた。お店の方が「実はタワービュー通り商店街でも小学校と連携したい、一緒に授業をやりたいという話があり、紹介したい」と上田先生に村方さんを紹介し、リーフレットは商店会の協力で店頭に置かせてもらえることになった。
学校との連携を模索していた村方さんたちにとって、この出会いは渡りに船。上田先生や学校の方々に「子どもたちと一緒にイベントをやりたいんです」と話を持ちかけた。
商店会から小学校への声掛けは、私にはとても意外に思えた。私が支援した商店街でも加盟店が減少し、地域密着で新しい顧客を呼びこむために子育て世代を巻き込もうと提案をするものの、店主から「子連れが来ても売上につながるのか?」と懸念する声があがり立ち消えになったことも少なくないからだ。
「商店会の加盟店も考え方が様々で、全員一致で新しいことを進めることはなかなかに難しい」と村方さん。一方で、商店会の枠を超え「地域の振興をしよう」と他の商店会と話をすると、「地域とつながることで、個店の認知も拡がり、商店街も盛り上がる」と想いは一致した。地域で連携する仲間が集まり、商店会を説得しながら突き進んできたのが正直なところだと村方さんは語った。


商店街について小学生に授業をする
翌2025年、錦糸小学校の5年生に村方さんと太平町商店会の大竹さんが「商店街」をテーマに授業をした。
子どもたちが思う商店街は、通りにびっしりと店が連なるところだ。墨田区にはキラキラ橘商店街があり、隣の江東区には砂町銀座商店街など下町情緒が味わえる人気の商店街がある。それに対して、タワービュー通り商店街は店が点在する商店街だ。「ここに商店街があるの?」「知らなかった」という子どもたちに、「学校の前の長い通りの中に、個人でやっている地元のお店があって、そういうお店の集まりを商店街というんだよ」と、村方さんと大竹さんは語り掛けた。
「君たちが知らないってことは、やっぱり盛り上がりに欠けてる。だから、ぜひ君たちの力を借りたいんだ」と呼びかけた。「盛り上げるために、『こども商店街』という企画をしてほしい」と投げかけると、子どもたちから「すごい!できるんだ」と大きな歓声があがった。村方さん達が「お店屋さんをしてください。あなたたちは一人一人が商店主になります」と言った時、子どもたちの真剣度がさらに一段上がった。
子どもたちの想像以上の反応に、村方さんたちは驚いた。
「今の子たちは、斜に構えるようなちょっとドライな面があるのかなと思った」と村方さん。面倒くさいと思われるかと疑心暗鬼だったが、子どもたちは授業をとても喜んでくれていた。
一方、小学校の上田先生は「学校教育なので、お金を儲けること、つまり収支をプラスにすることだけが一番の目標ではなくしたい。まちづくりや地域活性化というところに課題があって、それを自分たちと地域の方たちが協力しながら、少しでも今よりも良くなれるようにしていくことを学習の目当てにしたい」と考えていた。
その後の授業で上田先生と子どもたちは対話を重ねた。「地域の人の思いとしては、商店街をもっと盛り上げたい、人を集めたい。大人だけじゃなくて、性別もいろんな国の人も集めたい。私たちもそれを一緒になって協力して盛り上げよう、先生たちも一緒に協力する」と、子どもたちの思いや願いを再び確認。「タワービュー通り商店街を6年生の力で盛り上げよう」という授業のタイトルは、子どもたちが決めた。
こども商店街の狙い
2025年9月27日、班に分かれて子どもたちが店を出し、タワービュー通りに1日だけのこども商店街がオープンした。子どもたちはやりたい店の企画をもとに村方さんたちのサポートを受けながら予算書を作成し、地域の店から材料を調達して、当日の販売を担った。開催後には、収支計画をまとめて振り返る特別授業に村方さんたちも参加した。開店に必要な資金は予算書に応じて商店会から融資を受け、事業後に返済をする仕組みだ。
普段は、とても元気な小学6年生たち。単純で深く考えることなしで行動してしまう子どもも多いが、思慮深さゆえになかなか自分を表せない遠慮がちな子どももいる学年と上田先生は感じていた。ところが、こども商店街の当日は遠慮がちな子どもも「いらっしゃい」と声を出し、時間が経つとその声はどんどん大きくなった。友達とうまくいかず喧嘩になってしまう子どもも「みんなでお店を成功させよう」という一つの目標に向かい、「もっとこうしたらいいと思う」「この店はこうやったらいいんじゃないか」と「意見を戦わせる喧嘩」に成長していたと上田先生。「子どもたちは成功させようという目的をしっかり持って、ものすごく考えた」と振り返る。
子どもたちが真剣に向き合った理由のひとつに、教師ではなく「地域のプロの存在」の関わりがとても大切だったと上田先生は話を続けた。「子どもだからといって、お世辞ではなく、本当に改善した方がいいことに関してプロの視点で指摘をしていただいて、大人扱いをしてくださった」。大人と対等で真摯なやり取りで生まれる信頼と、温かいまなざしで見守られている安心を子どもたちは感じとった。村方さんと大竹さんはいつしか子どもたちにとって「尊敬している人」になっていた。「村方さんに言われたんなら……これは直そう」「大竹さんがこう言っていたから、もうちょっと考えよう」。本物の社会に参画することが子どもたちにはとても重要な経験で、実際に自分たちが持っている力を生かす場になったと上田先生は感じている。
こども商店街の企画を持ちかけた村方さんは、「子どもたちが特に真剣になってくれたのは、お金を扱う、自分たちで商品を仕入れる、リアルな商業活動でリアルマネーが動くという体験があったと思う」と語る。「例えば商店街の商品を渡して子どもたちに売り子をしてもらうという形ではなく、子どもたちで(実際には先生方を通じて)商品を買って、自分たちの行動、努力次第で売り上げが上がっていくんだっていうことをしっかり身をもって知ってもらったというのも良かった」と振り返る。
子どもたちには、お金を扱う責任と、商品が売れず赤字になったらどうしようという焦りもあった。
「お金を扱う」となんとなく話は聞いてたけれど、「お金渡されるの?」「計画書立てるの?」「マイナスになったらどうするの?」「借金するの?」と活動が具体化するにつれて子どもたちから不安も出た。子どもたちにとって大きなテーマは「商店街を盛り上げよう」だけれど、その中で「お客さんに楽しんでもらおう」「赤字じゃないようにしよう」など、小さな目標みたいなものがあったように思うと上田先生は教えてくれた。
村方さんは、「赤字になれば商売の難しさを分かってもらえる。黒字になれば自分たちのその努力でこういう風に黒字になるんだっていうことは分かってもらえる。だから、赤字黒字は成功失敗ではない」と言い切る。これは実社会で商売を切り盛りする経営者だからこその視点だと私は思う。予算書を作り、実績もまとめて結果を振り返り、なぜ見込み通りに売れたのか?売れないのか?を試行錯誤するのは、事業を成長させる基本だ。
本気を出したこども商店街
朝9時50分から始まったこども商店街には、錦糸小学校前のタワービュー通りに10軒の店が並んだ。射的にスーパーボールすくい、輪投げ、アクセサリー販売など、子どもたちがやりたい店が軒を連ねて、通りには家族連れや地域の人たちでにぎわった。
最初は緊張しがちに接客していた子どもたちも、誰か一人が大きな声で呼び込みをはじめるとどんどん動きが活発になっていく。1時間半あまりの短い時間の中で起きた子どもたちの積極的な変化に、村方さんたちは驚いた。当日訪れた墨田区長に、子どもたちは「区長、輪投げしていかない?」と臆せず声を掛ける。「子どもたちには、場に適応する力や行動力がすごい」とその柔軟性に目を見張った。普段は消極的な子どもたちも「いらっしゃい」と大きな声をあげ、「もうちょっとお客さん呼んできて」と声を掛け合う。普段の授業では見られない姿に、上田先生も「みんな、できるじゃない!」と心の中で叫んでいた。
はじめて開催したとは思えないほど、子どもたちの運営は見事だった。多言語で書かれた案内ボードを持った子どもたちは「ここから並んでください」と声を掛ける。言われるままに列に並ぶと、ゲームの説明をする子に会計をする子、ゲームをさせてくれる子に役割分担され、輪投げが外れると「惜しい!」と励ましの声も飛ぶ。
この段取りの良さは、前日までに授業のめあてを達成するために、子どもたちが積み重ねた試行錯誤が活きている。








シミュレーションと試行錯誤からの学び
こども商店街の前日に、子どもたちは運営のシミュレーションを行っていた。学校の校庭で実際にお店を並べて販売の予行演習をしたところ、うまくいかないところが見えてちょっとしたいざこざも起きた。「看板が足りない」など、やってみてはじめて気づくことがあった。先生たちも子どもたちも「どうしよう。もう時間がない!」と焦る中で、商店会から「これが足りない」「あれが足りない」とアドバイスが飛んだ。
普段は宿題もやってこない子どもたちも、家に集まり遅くまで準備をして親御さんに叱られたというハプニングもあった。それは子どもたちに「やっぱりまずい。どうしよう」と思う気持ちと、「なんとか成功させなきゃいけない」という気持ちが芽生え、彼らの中でそうする必然性があったのだと上田先生は想いを寄せる。時間がない中で「自分たちは遅れている」と焦る気持ちとぶつかる意見。上田先生たちが「今日これで決めないともうできないよ」とフォローすると、それじゃあと話をまとめて妥協することも学んでいた。
予算書などの数字の計画と当日の動きの予測をもとに、事前に試しながら検証し、不具合があれば修正する。はじめて「商売」に挑む子どもたちは、自分たちで決めた明確な目標に向けて、ドキドキはらはらしながら「こうすればこうなるんだ」と手探りして探求する楽しさを感じていた。だからこそ、当日の活気につながっていたのではないかと村方さんは考える。
子どもたちの真剣さと熱気が伝わるこども商店街は、タワービュー通りに面する各町会の協力と、こども商店街を応援する保護者や地域の人たちに支えられ、予想を上回る集客や売上と何より来場者の笑顔があふれていた。
こども商店街から子どもたちが学んだこと
こども商店街を終えた後に、子どもたちは授業で感想をまとめた。赤字にならなかった安堵と多くの人が喜んで訪れてくれたことへの満足感、商店街を自分たちが盛り上げるという目標に向かって全力を出し切った充実感にあふれていた。感想には「チームワークという言葉の意味をより深く理解することができた」「一生懸命努力すれば報われる」「村方さんや大竹さんが私たちの頑張りを見ていてくれて、たくさん褒めてくれた」「一生忘れません。年を取っても忘れないです」と、はじめて挑戦した「商売」に難しさも感じながら、自分たちが役に立つ実感と喜びを率直に表現していた。
授業を通してタワービュー通り商店街と出会った子どもたち。はじめは「ここに商店街があるのは知らなかった」けれど、授業を通してまちの魅力に気づいていった。「(びっしりとお店が並んでいなくても)落ち着いていていい」「スカイツリーが根元からてっぺんまで見えるのはこの商店街の魅力だ」と子どもたちは話している。自分たちがこども商店街を成功させることができたのは、村方さんたちが町会を1か所1か所まわり理解を得たり、ボランティアの人たちが運営に協力したり、自分たちが直接見ていないところで多くの人の支えがあったことにも気づけるようになっていた。
それこそが、授業を始める前に村方さんたちが願っていたシビックプライド(地域に対する市民の誇り)が子どもたちに芽生えた瞬間だったと私は思う。

こども商店街の教育的・社会的意義
上田先生は「今教育界では、高校の探究学習のように、課題を設定して情報を収集して、整理分析して、表現して、また次の課題を発見して……を繰り返す学習をリアルな現実社会でしていく流れがある」と教えてくれた。
子どもたちは実際のお金を扱い、計画から運営、振り返りまでを経験することで、協働や妥協・課題解決・地域貢献・コミュニケーションスキルなど多様な力を身につけた。また、商店会や地域の大人たちが子どもたちを見守り、支え、評価し、子どもたちの成長を見届け応援してくれる存在が地域にあることを子どもたち自身に感じてもらうことができた。
商店街の視点で見れば、こども商店街を通して商店街の振興をする意味合いがあった。開催に合わせ「こども商店街を応援しよう」というキャッチフレーズで、商店街の参加店舗で買い物をしてスタンプを集めるとこども商店街の会場で子どもたちが描いたショッピングバッグがもらえる企画を並行して進め、個店の認知や利用につなげている。
商店街が子どもたちを応援し、子どもたちやその家族や地域の人たちが商店街を応援する……この応援の循環がプロジェクトを進めたエンジンだ。この街にタワービュー通り商店街があること、まちのにぎわいは自分たちでつくり出せることを体感して、商店街の存在や価値を広く再認識する機会になったと私は思う。
そして、この小学校と商店会の連携は、来年度も続く計画がある。担任や子どもたちは入れ替わるが、経過や成果の資料はまとめて次の担任にお渡しすると上田先生は語る。今年はじめて行われたこども商店街は、錦糸小学校の授業として各商店街と連携しながら続いていくそうだ。
学校教育と商店街が溶け合う双方向の学び
こども商店街は、それを専門にする運営団体もあり、子どもたちのキャリア教育や商店街に子どもたちをよび込むエンターテインメント的な要素が強いパッケージとして各地で広がりつつある。一方、タワービュー通り商店街での今回の取り組みは、商店街活動に危機感を持った商店街が小学校に呼び掛け、草の根の連携を模索することで実現した。開催をきっかけに商店街も子どもたちから学び、これからの商店街のあり方を考えるきっかけを得た。商店街が子育て世代からも学びや応援を得て双方向のWin-Winな関係が生まれているところが特徴だ。
「商店街を盛り上げる」という目標のもと、商店街や地域の支えを受けて子どもたちは貴重な成功体験を味わった。実際に店主の立場を体験し、喜びや苦労を肌で感じることで、地域や社会とのつながりや誇りを実感したと私は思う。
大人同士でも、地域で同じ目標に向かって力を合わせる経験は得難い。学校教育と地域振興が融合することで、子どもたちは授業だけでは得られないリアルな社会経験や、社会の一員として認められる充足感、そして多くの人に支えられていることへの想像力を育む可能性がある。
何より、村方会長や大竹さんのような「尊敬できる大人」が身近な商店街にいることへの気づきは、子どもたちがこれから様々な人生の選択をする時にきっと支えになるはずだ。社会課題を解決しながら事業を持続するためにしっかり利益を上げる……自分たちが住みたい社会をつくる仕事を、成長した子どもたちが手掛ける時代もそう遠くはないかもしれない。




