商店街の衰退が叫ばれて久しい。郊外に進出した大型店との競合とそれに伴う中心市街地の空洞化、少子高齢化と人口減による商圏人口の減少、経営者の高齢化と後継者難など、その背後にある要因は日本の社会全体が直面している課題そのものだといえよう。商店街の活性化や再生に向けての模索が各地で続いているが、補助金を中心とした振興策には限界があり、商店街の役割や可能性そのものを見直す動きが広がっている。
そうした中、商店街支援とは無縁だったプレイヤーたちが、商店主や商店会とともに新たな可能性を掘り起こすケースが増えている。
マーケティングプランナーとして活動してきた著者もそのひとり。本連載では、商店街に飛び込んで異彩を放つプレイヤーを訪ね歩き、どんな化学反応から何が生み出されたのか、商店街の未来像を探る。

第14回 リノベーションで「わかち合う暮らし」をつくる つなぐば家守舎株式会社 小嶋直さん みのりんさん

鉄骨造賃貸アパートが小さな商店街に?

 東武鉄道伊勢崎線の新田駅(埼玉県草加市)から徒歩15分の住宅街に、古い鉄骨造賃貸アパートをリノベーションした複合施設「シェアアトリエ つなぐば」がある。

 1階は日替わりで出店者が変わるシェアキッチン。木のぬくもりと開放感のあるカフェスペースでは、お茶を飲みながら談笑できるほか、手仕事の講座も開かれている。靴を脱いで座れる畳敷きのスペースの隅には常設のおもちゃが置かれて、小さな子どもたちも一緒に過ごせる。入口近くにはおしゃれな雑貨や作品が並び、お気に入りを買うこともできる。

 2階は、子どもたちを預かるスペースや作品展示ができるギャラリーと、つなぐばを運営するつなぐば家守舎株式会社(以下つなぐば家守舎)のオフィスがある。

 ここは、「欲しい暮らしは私たちでつくる」をモットーに、自分たちの持てる知識や経験や時間を共有しながら日常をつくる「シェアアトリエ」だ。空間を整え場所を貸すだけのレンタルスペースとは違い、出店者がさまざまな関わり方で、つなぐば家守舎とともにアトリエをつくっている。

 「シェアアトリエつなぐば」を運営するつなぐば家守舎は、建築家の小嶋直さんとデザイナーのみのりんさんが経営する。「仕事につながる・母親とつながる・地域とつながる」をコンセプトに、地域のコミュニティの活性化を目指し、コワーキングスペース、カフェ、ワークショップスペース、美容室などの多機能な場を子連れでも働きやすい環境とともに提供している。

[上][下]鉄骨造賃貸アパートをリノベーションした「つなぐば」の外観

リノベーションスクールでの出会い

 埼玉県草加市は、江戸時代初期に日光街道の宿場町として栄えはじめた。明治時代に鉄道が開通したことで宿場としての役割は終え、その後1958年に市制施行してからは、ベッドタウンとして急速な都市化が進み発展を遂げた。

旧日光街道沿いの「草加松原」と呼ばれる松並木

 草加駅東口周辺エリアには、日光街道の古い街並みの名残がある。草加市は2013年にこのエリアの調査を実施し、2015年から草加駅周辺市街地活性化事業として「リノベーションまちづくり」に取り組んでいる。

 つなぐば家守舎は、2016年に開催された「リノベーションスクール@そうか」での小嶋さんとみのりんさんの出会いからはじまった。

 当時、草加市隣の川口市で小嶋さんは建築事務所を構えていた。事務所は古民家を改修してつくられたカフェsenkiyaに隣接し、リノベーションスクール開始の2週間前に草加市役所の職員がカフェオーナーあてにスクールのローカル講師の依頼に訪れた。あいにくオーナーは都合がつかず、「それならば僕が参加したい」とリノベーションに関心があった小嶋さんが名乗り出た。

 senkiyaは、代々続く植木屋を営む家に生まれたオーナーが敷地内で営むカフェと雑貨店だ。敷地内にはそのほかに革製品の店や車の修理工場など、多種多様なメンバーが経営する店が集まる。小嶋さんの建築事務所もその一つだ。かつて勤務していた建築事務所では文化財の改修工事を請け負い、その時にリノベーションを知った。仕事先では、そのまま壊され廃棄されていた古いものから全く新しいものがつくられることが、小嶋さんには衝撃的だった。

 「廃棄するなら引き取ります」と、小嶋さんは廃材を個人的に引き取るようになった。senkiyaには倉庫がありそこで廃材を保管した縁で、古いものを活用した店舗デザインが好きだったsenkiyaと一緒に小嶋さんは廃材を活用しはじめ、そのころからリノベーションの仕事にも関わるようになった。

 前述のリノベーションスクールには、全国から著名な講師が来る。小嶋さんは地域ですでに活動している経験があり、少し先輩のアドバイザー役として受講生チームに入り、受講生と同じ目線で動いた。そして、草加市がリノベーションまちづくりをやるのであれば、あわよくば自分も関わりたいと思っていた。

 一方、みのりんさんは草加市内で子育てをしながらフリーの空間デザイナーとして働いていた。デザインの仕事は好きだけれども、暮らしが追いついていかなかったこと、企業相手の仕事をしていたが、クライアントの顔が見えず、「誰のために何のために仕事をしているのかわかりにくい」とやりがいを見出せなくなってきたことから結婚を機にフリーランスになった。「日比谷線一本で都心に出られ、アクセスがいい」と草加市に家を買って移住。

 子どもが生まれて半年が過ぎた2015年に、みのりんさんは1期生として草加市女性創業スタートアップ事業「わたしたちの月3万円ビジネス in 草加」のセミナー(以下3ビズ)に参加した。3ビズのパンフレットにある「やりたかったことは、今やれることに変えられる」という一文がみのりんさんに響いた。家族を大切にして働きたいし、自分と向き合う時間も欲しい。「応援し合える仲間と出会う」という3ビズのコンセプトに、地域に誰も友達がいないけれど、無理せずに等身大の自分のまま、やりたいことを仕事にしていきたいみのりんさんは共感した。無理なく月3万円というのは、小遣い稼ぎではなく「やりたいことを仕事にしていく」志を意味した。それがみのりんさんにはしっくりきた。

 受講生の同期は16人。参加者はスキルの高い女性が多かった。当時は、子どもができたら一度会社を辞めて子育てに専念し、子育てが落ち着いたらまた働く人が多数派だった。そんな状況でも、「やりたいことをビジネスに変える力をつけていきたい」という人たちは、集まってみればみなパワフルな女性たちだった。

 リノベーションスクールの議論で、「子どもがいるとどうしても子どもを優先しがちで身動きが取れない。そのため『自分のために』とは思いにくいが、小さくでも、月に1回でも2回でもいいから『自分のための仕事をする』ことは、自己肯定感を保つことにつながるのではないか」とみのりんさんは思っていた。議論には、小さいお子さん連れてきている方が4組、5組と参加していたと小嶋さん。夜遅くまで子どもを抱えながら議論をして、「お母さんたちが子育てしながら、働ける場所ができないか」というテーマに行きついた。そこで、「子連れで働けるシェアアトリエ」をつくることになった。

みのりんさん(左)と小嶋直さん(右)

想いをかなえるシェアアトリエ

 シェアアトリエつなぐばの利用者は、飲食の方が多い。一方で、コワーキングできるスペースもあるので、デザイナーやライター、フォトグラファーも利用している。2階には美容室や親子の居場所が入居している。

 1階のテーブル席では、ワークショップを開催したり、作家としてものづくりをしたりする人もいる。シェアキッチンでは、ご飯やお菓子を作って提供する方、焼き菓子だけをテイクアウトで販売する方など利用の仕方はさまざまだ。そんなふうに地域で創業をされた店が集まってい鉄骨造賃貸アパートは、小さな商店街のようだと私は感じた。

 営業日も店主の事情にあわせて日替わりで、入れ替わる。店主には子育て中の母親も多く自分たちの持てる時間や役割をうまく共有しながら運営している、と小嶋さんは教えてくれた。営業時間も木曜日までは午後3時半で閉店となる。出店している母親は、3時半にお店を閉め片付けた後、保育園の6時のお迎えには間に合う時間帯だ。

 出店者は、暮らしと仕事のいいバランスが実現できる。訪れるお客様は、つなぐばのカレンダーを見てお気に入りの店を利用でき、また新しい店を知ることができる……なんとも合理的な仕組みだ。

手作り作家の作品が並ぶ店内
日替わりで利用者が入れ替わるシェアキッチン
[左]木のぬくもりにほっとするカフェスペース/[右]カフェの一角には子どもたちと過ごしやすいスペースがある

シェアする関わりが選べる仕組み

 つなぐばのモットー「欲しい暮らしは私たちでつくる」は、その運営面にも活きている。

 出店者は、つなぐばへの関与の度合いによりパートナーやセミパートナーという関わり方を設けている。パートナーは、出店に加えて運営にも深く関わるメンバーだ。月4回以上の出店や、つなぐばの運営会議にも一緒に参加してもらう。新しい利用者が入った時には、小嶋さんやみのりんさんだけでなくパートナーにも紹介して運営そのものにも関わる。

 セミパートナーは、利用頻度が少なめで、運営までは関わらなくてもいい。とはいうものの、運営にも積極的に関わってくださる方々もいる。できるだけコミュニケーションを取りながら、つなぐば家守舎はパートナーやセミパートナーと一緒に運営する形を作り上げてきた。

 「来月ここで出店したい」とつなぐばを訪れても、いきなり出店できるわけではない。まずは面談で、小嶋さんやみのりんさんと話をするところから始まる。話をしながらつなぐばをともにシェアする人として一緒にやっていけるかどうかを判断していると小嶋さんは語った。

 私はつなぐばで育まれたシェアする人たちの関係性が、個性的だがおだやかな「つなぐばに流れる空気」に現れていると感じた。「Do It Ourselves(略してDIO)」、すなわち 「誰かに任せるのではない自分たちの持っている知識や経験や時間を共有」しながら「新しい日常の風景をつくる」というつなぐばの事業コンセプトに共感し、働くことも家庭生活も自然な形でよくしたい人たちが、つなぐばの運営に自ら関わることで、その価値を体感している。端的に表現するなら、それは自分たちのありたい日常を自分たちでつくる誇りや喜びだ。

つなぐばへの関わり方と利用法

 シェアアトリエつなぐばは「シェア」する想いを理解し共有できる方に使ってもらいたいと小嶋さんは話を続けた。それは運営に関わりながら「一緒に作る」ということだ。利用したい人がどのぐらいの費用がかかるのかわからないと困るので簡単に利用条件を掲載しているが、お金さえ払えば使える「レンタル」とは異なる。実際に使いたい場合はお問い合わせいただいた時に「つなぐばの想い」を説明しているそうだ。

 つなぐばには、さまざまな「アトリエ」がある。ご飯を作る人にとってのアトリエはシェアキッチン、手仕事している人たちにとってはテーブルがまさにアトリエだ。利用を希望する人にとってのアトリエはそれぞれに違う。そういう意味でつなぐばにはいくつかアトリエが用意され、参画のしかたにより利用できる場所や金額が変わる。

 パートナーやセミパートナーとして登録をしている利用者は年間およそ60組ほどだが、そのうちのおよそ半数はそれなりの頻度で利用している。中には1回やってみたが思った通りにいかなかったという人や、半年に1回くらいの人もいるが、定期的に利用されている人が多い。

 お子さんは保育園に預けて日中はつなぐばで活動される使い方も多いが、これから起業したい人などは2階に親子の居場所があるので子連れで来る方も少なくないそうだ。1階には、前述のお子さんが遊びながら一緒に過ごせるスペースもある。

 一方、ここを利用されるお客様は、お子さんを連れて来店され、お食事を召し上がって2階の親子の居場所に移動する方が多い。土曜日は家族連れが増えて遠方からの来店も多く、さらに賑やかになる。子どもたちはつなぐばでご飯を食べてから目の前の公園で遊べるので、親子にとって最高のロケーションだ。広くはないがさまざまな機能を持つスペースがあり、いろいろな経験もできる。そして、子連れとは関係なく、カフェを利用しに来るご近所さんもいる。

大家さんと図書館を巡る

 2022年には、つなぐばの近くに「さいかちどブンコ」をオープンさせた。

 話はコロナ禍にさかのぼる。図書館が閉まりファミレスにも入れないという時期に、受験を控え図書館やファミレスで勉強できずに困っていた高校生がつなぐばにやって来た。「自分で論文をまとめプレゼンをするタイプの受験で、空き家を使うビジネスについて考えたい」と、高校生はつなぐばに論文の題材を探しにやってきた。小嶋さんはその話し相手をしたそうだ。

 「いま勉強する場所がなくて困っていて、コワーキングのような図書館的な場所があったら、500円とか1000円払ってでも使いたい」と高校生。「そういう場所で勉強ができるならお金を払う価値があります」と言う。

 当時、つなぐばでも学生さんたちにもっと関わってほしいと考えていたところだった。高校生の話がきっかけで、小嶋さんたちも草加市内の図書館や書店について調べると、市内には獨協大駅前に1館しか図書館がなかった。つなぐば最寄りの新田駅は、再開発で本屋さんがすべて閉店していた。

 小嶋さんたちも、地域で本に触れる機会がないことに気づいた。本に関係する場所が作れたらとアイデアを考えはじめ、つなぐばの近くに使っていない建物を所有している大家さんに、「新田駅近くには書店も図書館もなく本に触れる体験ができる場所がない」と話した。

 大家さんは、普段はケアマネージャーとして働く傍ら、大家業を営んでいた。ケアに関わる仕事を経験して、ご自身の10年後20年後の姿を思い描いたときに、地域に本に関わる場所をつくりたいと考えていたそうだ。ご自身がケアを必要とする頃には「お世話になる以外にも地域におもしろい場所があれば、自分の心身の健康が保てるんじゃないか」と感じていたそうだ。なにより地域に楽しい場所が増えてほしいと思っていた大家さんは、小嶋さんたちの本に関する場所づくりに賛同してくれた。

 大家さんの想いは強かった。「ちょっと見に行きたい図書館がある」と大家さんから小嶋さんやみのりんさんに連絡が入り、一緒に図書館を視察しにまわった。栃木県宇都宮市にある築50年のアパートを改修してつくられた私設の「もみじ図書館」や、静岡県焼津市の商店街の中にある「みんなの図書館さんかく」など、年1、2回は大家さんと一緒に視察に出かけた。小嶋さんたちも知らないところに大家さんがアンテナを張り巡らしていて、「ちょっとここに行ってみたい」とちょくちょくメッセージが送られてきたそうだ。

さいかちどブンコ 提供:つなぐば家守舎(3点とも)

自分たちの楽しい場所からじわじわと

 小嶋さんはsenkiyaにいたときから、「自分たちのいるところから、周りに楽しい場所が増えていったらいい」と考えていた。小嶋さんは練馬区出身だが引っ越しも多く転々としてきたので、練馬が地元という実感がない。だから移り住んだ先で自分たちがおもしろいことができて、周りにおもしろさが広がっていったらいいと思っている。

 そもそも、つなぐばを作った初期メンバーに、草加市出身者は誰もいなかった。逆に、みんながそれぞれに、もと居た場所の魅力を紹介したり、魅力的な人を呼んできたりするところから始まっている。自分たちで草加市に他地域からおもしろい人たちを連れくることができたら、それは草加市にとってもいいことではないかと思っていると小嶋さん。

 もちろん草加にも地元出身でそのまま住んでいる人がいる。地元の人から見れば、小嶋さんやみのりんさんのように、外から来た人間はよそものだ。ところが、外から来た人間がおもしろいことをすると、後からどんどん人が集まってくる。気がつくと「ずっと草加に住んでいるんです」というメンバーも加わってくれた。草加市で生まれ育った人たちは、「草加市は実はもっとおもしろくなるのに」「可能性を秘めているのに」というジレンマをずっと抱えていたようだった。

 前述のさいかちどブンコの大家さんは、その代表かも知れない。

 大家さんは地元に欲しいと思った場所をつくる経験を通して「地元の景色が変わった」と思っているそうだ。そしてまた、何かやりたい人がつなぐばに新たに集まるようになった。

つなぐばの想い

 つなぐばのカフェメニュー表には、ここを訪れる人に自分たちが大切にしている想いを知ってほしいと、最初のページに「つなぐばの想い」が書かれている。手仕事作家として利用する方も、ただお茶や食事をしに来る方も、そしてそのご家族も「この場所を一緒に作っていきたい」というつなぐばの姿勢をとても大切なものとして感じてほしいとみのりんさんは思っている。

 つなぐばの想いを書くことで、「こういう日常を大切にする場所ですよ」と、そっと表現しているとみのりんさん。続けて、自分の利益だけを優先する人は、多分ここは合ってないと思うとも率直に語った。実際、「地域で生きていくとか、本当に自分を大事にするとか、自分と子どもたちの生活を大事にするとか、そういう方が自然と集まってくれる」と感じているそうだ。

 「街が変わったっていうよりは、自分の見え方が変わった。昔からいる人はそう変わってはないと思うかもしれない。自分はこの街を愛したことがないとか、愛着がないのではと思っていたけれど、実は自分が飛び込んでみたらそうではなかった。いいところがたくさんあって、いい人もいっぱいいたが、ただ自分には見えてなかっただけと気づいたことが一番変わったところ」とみのりんさんは感じている。

 リノベーションまちづくりを通してまちの魅力に気づいた人が増えて、そこからまちが変わってきているのではないだろうかとみのりんさんは思う。確かに、私がたまたま草加駅東口のカフェを訪れた時に、若い店主が開いたカフェにコーヒーを飲みに来た地元のおじいさんが「若い人が店を開いてくれて、俺はうれしい」と語っていた姿が印象に残っていた。おしゃれで個性的なおもしろい店が増えたことで、それをきっかけにまちの人のまちへの感覚が変わってきているのかもしれない。

カフェメニュー表に記された「つなぐばの想い」

つなぐばは、増殖し成長する

 駅から離れた鉄骨造賃貸アパートを改修してオープンしたつなぐばは、来年6月に8周年を迎える。

 現在つなぐばの隣のアパートをリノベーションする話が、大家さんと小嶋さんたちの間で進んでいる。周年に合わせて来年の6月にオープンできたらと小嶋さんたちは考えているが、何をやるかはいま大家さんと一緒に話をしているところだ。新しい場所で一緒に何かをやりたい新しい仲間を募集するところから着手したいと思っている。

 つなぐば家守舎が新田駅界隈で手掛ける場所はすでに3拠点あるが、隣の物件が改修されれば、さらに新しく拠点が増える。小嶋さんとみのりんさんの2人ではじめたつなぐば家守舎だが、利用しているパートナーも成長して現場を任せられそうな人も現れているそうだ。小嶋さんたちは、意欲的に関わってくれるパートナーにそれぞれの拠点を任せていきたいと考えている。そして小嶋さんたちは拠点をつなぎ全体的に関わっていく。そのためには担っているつなぐばでの役割を、少しずつ誰かに手を渡すという課題がある。

 いまは、みんなでこれから10年にわたるつなぐばのビジョンを作ろうと話し合っているところだ。

 最初は「子連れで働けるシアトリエ」からスタートしたが、子どもたちはみな大きくなった。成長した子どもたちは、家で過ごしたり友達と遊んだりすることに忙しく仕事場についてこなくなった。

 自分たちの暮らしにあわせて場所のコンセプトを変えていく話もあるが、やはり子連れで働ける、子連れで来られる場所は、自分たちの子どもが来なくても当たり前にあっていい、とみのりんさん。あえて「子連れで働ける」と名乗らなくても、それは当たり前につなぐばにあることを前提に、みんなでその先を考えていったらどうかという話をしているそうだ。

 子連れやいろんな人が参加しやすい雰囲気が生まれるつなぐばに流れる空気は、コミュニケーションのあり方や仕掛けの工夫でもある。関わる人が集まり描くイメージは話し合いを通して混じり合っていくそうだ。

 「自分たちの欲しい暮らしは私たちでつくる」というつなぐば家守舎のミッションは、変わることがないとみのりんさんは思っている。自分たちでこのまちでの暮らしを作っていくことを、もっと広めて浸透していく事業の形が取れたらいい。

 新田駅前は再開発で区画整理が進み、それまであった店がなくなり、建て替わっても事業者が入らない状態に直面している。「新田で商売してもうまくいかない」と思っている人が多いことは、逆にチャンスだと小嶋さんは考えている。つなぐばに何かやりたい人が集まって来ている中で、逆に店がないエリアで自分たちの事業をやりたいという人たちが増えていったらいい。

 みのりんさんは、つなぐばで育った子どもたちが成長し、つなぐばに流れる想いを感じて、いつか子どもたち自身が「ここで何かをしてみたい」と思える場所になってほしいと願っている。時間を超え、世代を超えて、「自分でも何かできることを、ひとりでは無理でもみんなでやったらいいし、やってみよう」と思える場所が身近にあれば、みのりんさん自身が高齢になっても楽しく充実して暮らせそうだとも思っている。

 つなぐば家守舎は、「欲しい暮らしを私たちでつくる」モットーを軸に、地域で暮らしの循環をつくる次のステップへと踏み出している。

目の前の公園をつなぎ開かれる「つなぐ八市」 提供:つなぐば家守舎(3点とも)

ともに暮らしをつくる価値

 商品やサービスとして提供されたモノやコトを消費するだけが、消費者にとっての価値ではないと私は思う。古くは商店会や町会などの共同体がともに暮らしをつくる役割を担い、自らやりたいことを実現する醍醐味を味わう場や機会にもなっていた。しかし、いまは残された共同体にはともにつくるおもしろさや楽しさを味わうゆとりが失われ、組織や役割、責任が残り、価値や魅力を失っているように思う。

 自由に意見が言える、必要に応じて協力し合える、何より自らの意思で関わりを主体的に選択できるシェアアトリエつなぐばは、地域の活性化はもとより、自立した人として生きる場所や時間を取り戻す場になっている。

 「誰かに任せるのではない自分たちの持っている知識や経験や時間を共有しながら、新しい日常の風景をつなぐばがつくる」という想いは、私たちに消費するだけではない、ともに暮らしをつくる力があることを思い出させてくれる。

 ままならないことが多い日々の暮らしは、自分たちの力で変えることもできる。生まれた魅力に引き寄せられて新たな人が集まり、まちは変化し続けるのだ。


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第14回 リノベーションで「わかち合う暮らし」をつくる つなぐば家守舎株式会社 小嶋直さん みのりんさん

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