理学療法士である著者は、東京・府中市で訪問看護ステーションおよび居宅介護支援事業所を運営しながら、カフェや空きアパートを使ったコミュニティ事業を展開している。あそびを通じた表現活動を行うアトリエ、中高生のサードプレイス、菓子工房、銅版画工房などが半径50メートル内に集まる一帯の名は「たまれ」。最寄の多磨霊園駅と、人が「溜まる」をかけて名づけられた。
こうした活動を通して実現しようとしているのは、人と人との「弱いつながり」だと著者は言う。2011年の東日本大震災以降、とみに加速した人と人との「つながり」を絶対視する風潮への違和感からたどり着いた、「たまれ」という名の「場づくり」。その足跡を振り返りながら、医療と患者、医療と地域、人と人の「いい感じ」な関係を考察する。

#4 訪問「看護」ステーション開設前夜

 理念やコミュニティの構想を終え、会社の立ち上げに向けていよいよ本格的な準備がはじまる。2014年のうちに会社の登記を済ませ、翌年の2015年3月から訪問看護ステーションの事業をはじめる計画を立てた。今回は、理学療法士である僕が、なぜ、訪問看護ステーションを事業に選んだのか、訪問看護で何を目指していたのかを中心に、立ち上げ前の話を紹介したい。

開業時につくったリーフレット

理学療法士には独立開業権がない

 僕が持っている理学療法士という資格には独立開業権がない。法律上「医師の指示の下に理学療法をおこなうことを業とする者」と定義されているため、理学療法士が独立して単身で理学療法を提供することは認められていないのだ。加えて、国家資格についての話もしておく。法律も絡んでくるため、読む人によっては、やや堅苦しい話になると思うが、理学療法士や看護師の社会的な立場について知ってもらいたいため、ぜひ読んでもらいたい。

 文部科学省は国家資格について「国の法律に基づいて、各種分野における個人の能力、知識が判定され、特定の職業に従事すると証明される資格」と定めている。さらに、法律で設けられている規制の種類により、業務独占資格、名称独占資格、設置義務資格、技能検定に分類されている。業務独占資格とは、弁護士、公認会計士、司法書士のように、有資格者以外が携わることを禁じられている業務を独占的に行うことができる資格で、医療分野では医師や看護師がこれにあたる。また、名称独占資格とは、栄養士、保育士など、有資格者以外はその名称を名乗ることを認められていない資格で、理学療法士はここにあたる。

 ひらたく言うと、医師や看護師などの業務独占資格は、資格がない限りその業務を行うことはできず、万が一行った場合は法律により罰せられる。一方、理学療法士のような名称独占資格は、業務独占は兼ねていないため、無資格者がその業務を行なったとしても罰せられない。例えば、理学療法士の業務の1つである理学療法を無資格者または理学療法士以外が行なっても問題ないが、無資格者が理学療法士と名乗って理学療法を行うことは法律違反となる。

 名称独占資格の話は余談になったが、僕ら理学療法士は単身で業務を行う権限はなく、国家資格といえども、医師や看護師などの業務独占資格とは違う立場にいる。

 では、開業権を持っていない僕はどのように開業したのか。

独立開業への興味

 #3で2011年まで病院に所属していたという話をしたが、その頃から独立開業に興味を持っていた。ある日、友人と飲んでいる時に、千葉県館山市で医療法人の理事長をしている知人がいるという話を聞いた。法人の系列では、いくつかの認知症グループホームを運営しているらしい。幅広く事業を行っていることに興味を持ち、友人にお願いして見学に行かせてもらった。病院で働きはじめてから3年ほど経った2009年頃だったと思う。

 独立開業に興味を持っていたが、具体的なプランは全く考えていなかった。認知症グループホームを事業にしたいという考えもなく、近い将来、何かの役に立つかもしれないという思いでお世話になった。

 僕が理学療法士に独立開業権がないことを知ったのはこの時である。案内して下さった理事長が教えてくれた。どうやら、医者や看護師は独立開業権を持っているが、理学療法士や作業療法士などのリハビリテーション専門職は権限を持っていないらしい。

 当時は、独立への興味はものすごくあった訳ではなかったので、道を絶たれて落胆することはなかった。ただ、独立できないという理学療法士の社会的な立ち位置を知り、自分の持っている資格に対する危機感を覚えた。それまで自分が働く病院内の世界しか見えていなかったが、環境を変えて外の情報を得ることの大切さを知った。

 館山での見学を終えた後、僕の起業への思いはすっかり頭から離れていた。その後、病院を退職する半年前の出来事によって、再び起業を意識することになる。僕が担当する患者の退院前に、自宅を訪問して段差や生活動線のチェックを行うことになった。病院では、退院前に理学療法士などが自宅訪問を行うことがある。退院後、玄関の出入りや家の中の移動、トイレや入浴動作、家事動作などを安全に行いながら暮らせるよう、事前に訪問し調査をするためだ。調査の結果、必要があれば段差解消などの自宅内の改修や、入浴の際に使う椅子などの福祉用具を提案する。

 自宅への訪問は、患者とその家族以外に、担当のケアマネジャーや退院後にお世話になる予定の訪問看護ステーションの理学療法士が同行した。訪問看護ステーションの理学療法士とは初対面だったため、挨拶をしつつ名刺交換をした。名刺には、理学療法士の他に代表取締役という肩書が書いてあった。

 理学療法士は独立開業はできないはずだが、なぜだろう。気になって仕方がなかったので、調査を終えた後に思い切って尋ねてみたら、思いもよらない答えが返ってきた。認識していた通り、確かに理学療法士として訪問看護ステーションの独立開業はできない。しかし、訪問看護ステーションを運営する会社の代表になることはできるというのだ。その上で、独立開業権を持つ看護師を雇用することで、訪問看護ステーションの開業に必要な条件が整うことがわかった。なるほど、その手があったかと、再び起業に向けての思いが湧き上がった瞬間だった。

訪問看護ステーションを事業に決めた理由

 ここから、僕の起業プランは再び動き出す。2011年に病院を退職した時点では、事業内容や起業の時期は全く具体的ではなかった。その後、訪問看護ステーションのリハビリテーション部門の管理者やデイサービスの管理者を経験したことで、事業内容が具体的になっていく。この時点での選択肢は3つあった。グループホーム、デイサービス、そして訪問看護ステーションだ。繰り返すが、いずれも理学療法士としての独立開業はできないので、会社の代表となり、それぞれの開業に必要な資格を持つ人材を雇用する事業形態でなければならない。

 グループホームやデイサービスなどの施設におけるリハビリテーションの提供は、僕が理想とするものではなかった。どのような理想かというと2つある。1つは、病院から早期退院しても、その人が自宅で暮らすことができるような高い専門性を発揮すること。もう1つは、自宅において、その人の息遣いや人間臭さが垣間見えるような環境において、家族やまちと関わりながらケアを提供することである。

 もう少し詳しく説明する。当時、在宅における医療サービスの質は今ほど高くなかったと個人的に感じている。僕がそうであったように、病院に所属する理学療法士や看護師をはじめとする専門職は、在宅サービスの質について、どこか否定的に見ていた雰囲気があった。

 入院している患者から早期の退院希望が出ても、在宅における医療や介護の質では看ることができないという理由で退院が叶わないケースが多くある。もちろん、病院でしか行えない医療はあるが、それが全てではない。2011年から2014年まで所属した訪問看護ステーションでは、それを覆すケースを何例も見てきた。僕は、自宅で暮らすことを希望する人がいつでも自宅に帰れるように、質の高い医療や介護を提供できるステーションを目指した。これは、理学療法士などのリハビリテーションの専門職だけでは叶わない。看護師と一緒にケアを行うからこそ、様々な状況に対応しながらリハビリテーションの提供ができるのだ。僕が訪問看護ステーションを事業として選んだのは、このような理由からである。

訪問リハビリ? 訪問看護?

 「理学療法士はリハビリテーションを提供するのに、なんで訪問看護ステーションなのか。訪問リハビリステーションではないのか」

 ここまで読んでくださった皆さんの中には、こんな疑問を持つ人も少なくないと思う。

 訪問看護と訪問リハビリの違いを説明すると、訪問サービスの種類には、医師による「訪問診療」、看護師による「訪問看護」、リハビリテーション専門職による「訪問リハビリテーション」、介護士による「訪問介護」がある。この場合、理学療法士である僕が自宅に訪問するのだから「訪問リハビリテーション」になると思うだろうが、その限りではないのだ。

 利用者が介護保険や医療保険を利用し、自宅への訪問リハビリテーションを利用する場合は2つのサービスがある。1つは「訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)」、もう1つは「訪問看護ステーションからの理学療法士等による訪問(以下、訪問看護からのリハ)」だ。2つの違いについては表を参照してもらいたい。まず、訪問サービスを運営する事業者に大きな違いがある。「訪問リハ」は病院や診療所などが運営し、「訪問看護からのリハ」は訪問看護ステーションが運営する。また、定義の内容も大きく異なり、「訪問リハ」は理学療法や作業療法が明示されているが、「訪問看護からのリハ」では看護師等による療養上の世話又は診療の補助とされ、理学療法や作業療法などリハビリテーションに関わる内容は明記されていない。ちなみに、「訪問リハ」と「訪問看護からのリハ」では、リハビリテーション提供内容に違いはない。

リハビリテーション専門職の社会的な立ち位置

 これらの表記に関しては、これまでリハビリテーションに関する職能団体で様々な議論がされてきたが、僕自身は正直どうでもいい話だと思っている。

 少しだけ開業権の話に戻る。リハビリテーション専門職の独立開業権がないという話をしたが、リハビリテーションに関わる職能団体で開業権を求める動きがある。訪問看護ステーションのように医療保険や介護保険を利用したサービス提供を行い、リハビリテーション専門職が単独でも診療報酬を得ることができるよう声をあげている。それは、病院や診療所からの「訪問リハ」でもなく、訪問看護ステーションからの「訪問看護からのリハ」でもない、リハビリテーション専門職が運営する事業所からの「訪問リハ」という位置付けだ。

 しかし、2019年に日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会の4病院団体で構成される四病院団体病院協議会(以下、四病協)は、リハビリテーション専門職の開業について反対の方針を明確にした。四病協は方針の理由として、リハビリテーション専門職の飽和と地域偏在の助長を挙げた。厚生労働省の理学療法士・作業療法士需給分科会によると、理学療法士や作業療法士の供給数は既に需要数を上回っており、2040年頃には需要数の約1.5倍になると示している。四病協は、リハビリテーション専門職は地域偏在があり、回復期病棟などを担う病院では人材不足が深刻であると加えた。独立開業権を与えてしまうと、病院から人材が流出し、人手不足がより深刻化するということだろう。

 四病協は、リハビリテーション専門職の飽和と地域偏在の助長を理由に独立開業を認めないという方針を出したが、僕個人としては「リハビリテーション専門職の立場を社会的に明確にできていない」という背景があると感じている。誤解があるといけないので書いておくが、リハビリテーションの専門職の社会的な立場を上げたいがために、このような話をしているのではない。#2で書いたような「なんちゃってリハビリ」と言われている現状において、四病協の方針は当然だと思う。「訪問看護からのリハ」における診療報酬や介護報酬は年々下がっている。これが何を意味するのかを、リハビリテーション専門職はよく考えないといけない。もちろん、社会保障費を抑制する政策がとられているという大きな理由はあるが、訪問看護においては下がっていないのだ。むしろ、加算が充実する傾向にある。

 リハビリテーションの専門職が日々関わる人は心身のどこかに課題を抱えている。その課題のうち、目に見える課題に関わるだけでは、リハビリテーションの専門職としての役割を担っているとは言えない。顔を見て会話をし、時には議論や対話を重ねながら、その後の患者の暮らしを考え、高い技術や知識を持ったリハビリテーションを行うことが僕たちの本来の役割だと思う。そして、これらを訪問の現場で実現させるためには、まずは看護師と一緒にケアを行うことが必要である。繰り返すが、僕が理想とする訪問看護ステーションは、自宅で暮らすことを希望する人が、どんな状況でも帰れるような質の高いケアを提供できるステーションである。リハビリテーションの専門職が看護師と一緒にケアを行うからこそ、様々な状況に対応しながらリハビリテーションの提供ができるのだ。

 訪問看護ステーションでは、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の専門性と看護師の専門性をお互いが覗き込むことができる。僕は、看護とリハビリテーションを分けるのではなく、まずはお互いの価値を覗き込みながら一緒にケアを行える文化や雰囲気をつくることからはじめることにした。このような関わり合いを時間をかけて行うことで、いつかリハビリテーション専門職の独立開業が実現するかもしれない。もっとも、独立開業が認められたところで、僕は訪問看護ステーションを選択するだろう。いずれにしても、僕は、その礎になるような訪問看護ステーションを目指している。

訪問看護ステーションの指定を受ける

 訪問看護ステーションの開設の話に戻そう。訪問看護ステーションを開設するためには、介護保険法に基づく都道府県知事または指定都市・中核市市長による居宅介護サービス事業者および介護予防サービス事業者としての指定と、健康保険法に基づく地方厚生(支)局長による訪問看護事業者としての指定を受ける必要がある。指定の要件は、法人格を有していること、人員基準を満たしていること、設備・運営基準に従って適切な運営ができることとされており、さらに、開設の目的や対象、訪問看護サービスの内容などを明文化し、申請書類を都道府県の担当窓口へ提出する必要がある。具体的には、設備整備計画、人員計画、資金計画、サービス計画等が書かれた3年から5年の中長期経営計画や、訪問看護事業を運営するための契約書や重要事項説明書などである。

 これらの書類は東京都が指定するフォーマットに記入し提出する。WEBページには記載例が掲載されていたので、書類作成はそれほど苦労しなかった。訪問看護ステーションの指定申請とは別に、銀行からの融資の話を進めていたため、資金計画やサービス計画、中長期計画は既に作成していたものを写すだけだった。

 苦労したことは、人員基準を満たすことである。訪問看護ステーションを運営するためには、常勤換算で2.5人以上の看護師を配置することが義務付けられている。常勤換算の基準は、訪問看護ステーションの開設を目指している人が大抵ぶつかる障壁だ。中には、開設後に基準が満たなくなり、やむを得ず閉めてしまう訪問看護ステーションも少なくない。常勤換算2.5人は小規模のステーションにとっては、かなり厳しい数字である。しかし、ある程度の基準を設けておかないと、誰でも開設できるようになってしまう。訪問看護の質を担保するために、基準を厳しくしているという意図もあるだろう。

 例に漏れず、僕も2.5という数字に悩まされたが、無事に3人の看護師を採用することができた。3人の看護師のうち1人は、病院で働いていた時にお世話になった病棟の副師長で、管理者をお願いすることにした。

 前述したように、病院に勤めていた頃は、急性期の治療を終え、家に帰るためのリハビリテーションを行う回復期リハビリテーション病棟を主に担当していた。身体の状態が安定している患者のリハビリテーションを行うのが回復期の役割とされているが、僕がいた病院は少し違った。主治医の方針により、健康状態の管理が必要な患者も多く受け入れていたため、状態の変化に留意しながらリハビリテーションを行う必要があった。そのためには、看護師や医師とのコミュニケーションが重要になる。僕は、回復期病棟の管理を任されていたこともあり、特に看護師とのコミュニケーションは意識して行っていた。開設メンバーとして声をかけた副師長とは、かなりの頻度で患者の現状確認を行い、どこまでリハビリテーションを進められるかを議論していた。

 一人の理学療法士としての個人的な意見になるが、リハビリテーション専門職にとって病棟看護師に話しかけるという行為は、かなりハードルが高い。特に、新人スタッフは声掛けするタイミングなどを誤ると、嫌な顔をされることも少なくない。看護師を否定するつもりは全くなく、そのくらい病棟の看護師は忙しいということだ。

 僕も新人の頃はドキドキしながら声をかけていた。その中で、僕なりに工夫したことがあって、まずは看護師と共通言語で話をできるようになれば、良い関係をつくれるのではないかと考えた。当時、僕が思う共通言語は、患者の状態を示す、血液データやMRIやCTなどの画像データ、心電図、様々な疾患における病態で、新人のうちから必死で勉強した。リハビリテーション専門職として患者に何をしたいのか、それを行うために何が心配で、看護師にはどんなフォローをしてもらいたいのかを共通言語を持って明確に伝えることが必要だと感じていたからだ。前述したような、患者に対して、その時の最善のリハビリテーションを行うためには、看護師と一緒に行うことが必要という考え方は、当時から変わらない。

 正式な依頼は面と向かって伝えたかったので、彼女の自宅近くのファミリーレストランで会うことにした。約5年振りの再会だったが、全く違和感なく話ができた。お互いの近況報告をした後に、本題に入る。シンクハピネスが目指す未来を伝え、訪問看護ステーションとして、看護師とリハビリテーション専門職が別々に動くのではなく、密なコミュニケーションを取りながらケアをしていけるようなステーションをつくりたいと声をかけた。さらに、副師長として動いていた頃のように、管理者として、看護としての高い専門性を発揮しつつ、リハビリテーションにも積極的に関わって欲しいと伝えた。

 驚いたのは、間髪入れずに返事があったことだ。元々、在宅での看護には興味があったということと、病院で培った専門性を在宅でも試したいという思いがあったそうだ。また、僕が思い描く未来にも共感してくれて、特に「”いま”のしあわせをつくる」という理念への賛同が大きかったと思う。

 2人目は友人のパートナーが、ちょうど就職先を探しているという話を聞き、声をかけた。中学生からの付き合いで、親同士も仲が良く、今でも時間が合えば一緒にトレーニングしたり、ご飯を食べに行ったりする仲の友人だ。まさか、彼のパートナーが一緒に働いてくれるなんて思っていなかったので、一緒に働いてくれるという返事をもらった時は、本当に嬉しかった。3人目は、大学時代に塾講師のバイトをしていた時の生徒だった人に紹介してもらった。その人のお母様の友人が看護師で、就職先を探しているということを聞いて、紹介してもらった。

 訪問看護ステーションを開設するにあたり、看護師以外にも2名採用した。1人は理学療法士で、新卒で入った病院の同期に声をかけた。もう1人は事務員で、僕が2014年8月まで働いていた訪問看護ステーションで事務の経験があった。僕より前に退職していて、全く別の仕事に就いていたが、転職を考えているという話を聞き声をかけた。

 これで訪問看護ステーションを開設するための、全ての準備が整った。予定通り、2015年1月中に東京都に申請書類を提出し、翌月には2015年3月1日付での開設許可をもらった。

シンクハピネスのスタートを社会に向けて発信する

 僕が起業することを公にしたのは2015年元日だ。シンクハピネスが目指す未来のためにはたくさんの人に関わってもらう必要があり、そのために、まず広く知ってもらうことを目指した。

 周知の方法は、お世話になった方には直接メール等で連絡をして、一般にはFacebookで発信することにした。Facebookはそれまでも頻繁に使っていて、意識的に友達を増やすようにしていた。訪問看護ステーションで働いている時も、ほぼ毎日投稿していた。会社や僕がやっていることを発信することで、興味を持ってくれる人を1人でも多く増やすことが目的だった。投稿していた内容は、訪問看護やリハビリテーションに関すること、スタッフの紹介などである。周りからは、Facebookで周知するなんて効果ないよねと言われていたこともあったが、実際に投稿を見た人からの見学や入職希望の問い合わせが多くあった。

 もっとも、周辺の訪問看護ステーションでFacebookを使ったPRをしているところは全くなかったので、そこを狙い他との差別化を図ろうとしていた。特に、リクルートについては力を入れていた。看護師やリハビリテーション専門職を人材紹介会社から採用するとなると、かなりの費用がかかる。業者によって様々だが、想定年収の20%から30%の手数料がかかるのだ。さらに、人材紹介を通じて採用した人材はその後の定着率が悪いと言われていて、これに関しては僕も同感である。当時勤めていた会社ではホームページ作成やblog、SNSなどのPRも担当していて、採用面では会社への貢献はかなりしていたと思う。

 このようにFacebookを使っていたため、シンクハピネス立ち上げについてのPRも、Facebookを使うことで、ある程度の人の目には入るだろうと期待していた。Facebookの友達は多い方ではなかったが、僕が見て欲しいと密かに期待していた人たちからのお祝いなどのコメントはたくさんもらった。シンクハピネスの事業として、訪問看護ステーションをスタートする前にある程度の人に知ってもらうことができたので、僕にとっては大きな後押しとなった。

2015年1月1日のFacebook投稿

 一方、僕が思い描いた事業に対して、批判的な目で見ていた人がいたかというと、良くも悪くもいなかったのだ。#3で書いたような事業内容は、誰かに相談しながらつくったのではなく、一人で考え、まとめたものだった。構想がある程度かたちになってからは、できるだけ多くの人に知ってもらおうと、様々な人に語り歩いていた。その時も批判的な目で見る人はいなかったと記憶している。

 僕は、在宅医療や福祉分野において、それまでに無かったものをつくろうとしていた。そこには、多くの医療や福祉の専門職が思う「あったらいいよね」を詰め込んでいたと思う。だからこそ、事業内容を批判的に見る人がいなかったのではないだろうか。

 しかし、これを書いている現在まで批判的に見る人がいなかったのかというと、そうではない。懐疑的な目で見る人が出てきたのは、事業がはじまってからだった。「それって夢物語でしょ?」「どうやって事業として成立させるんだ」などの声が届いたが、特に気にならなかった。後々になって、思い切ったことをしたなと振り返ることもあったが、9年前の構想があったからこそ、いまの「たまれ」があると思っている。

 株式会社シンクハピネスの訪問看護事業は僕を入れて6名の体制(看護師3人、理学療法士1人、事務員1人)でスタートした。#2で書いたように、シンクハピネスは、医療や福祉の視点を持つ訪問看護ステーションと、まちの視点を持つコミュニティなどを運営することで、医療や福祉の専門職とまちで暮らす一住民としての両方の立場から、お互いの価値を覗き見ることができる場をつくることを目指している。訪問看護ステーションがスタートし、いよいよコミュニティの運営について検討していくことになる。


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#4 訪問「看護」ステーション開設前夜

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