「この番組は、社会をよりしあわせなものへデザインしていく……そんな活動をしている人たちを迎えて楽しくお話をうかがっています。いわば、日々の暮らしに新たな気づきをもたらす『ソーシャル・デザイン』研究所です」

毎回、そんな私の語りで始まるラジオ番組「おしゃべりラボ~しあわせSocial Design~」(ニッポン放送、毎週土曜 午前7時40分~8時)では、ゲストと話すなかでいくつもの「社会デザインの物語」が現れてくる。
ロジックだけでは尽くせない身近なストーリーが確かにそこにある。

第2回 GoodJob! Travelの物語(前編)

始まりのGoodJob! Travel

 この間、昨年11月12日、19日の放送で森下静香さん(GoodJob! センター センター長、一般財団法人たんぽぽの家理事)、今年1月7日・14日の放送で高田彩さん(ビルド・フルーガス代表)、2月4日・11日放送分では田口ひろみさん(NPO法人ポラリス代表理事)をお迎えできた。

 3人の方たちは、GoodJob! Travelというプログラムでつながっている。森下さんと私は、後述する「たんぽぽの家」のご縁で長いお付き合いだが、高田さん、田口さんとは、昨年11月26日~27日に実施された「GoodJob! Travel MIYAGI 2022」ツアーでそれぞれの「現場」におじゃましてお知り合いとなった。

 そもそもは、上記ツアーのご案内を森下さんからいただいたのが始まりだった。このところ、コロナ禍で「たんぽぽの家」とはしばらくごぶさたしてしまっていたし、何より「(東日本大)震災以後の創造的な福祉とまちづくりに出会う旅」というテーマはとても魅力的だった。加えて、宮城ツアーのすぐ前に行われる「GoodJob! Travel FUKUSHIMA 2022」に残念ながら仕事の都合で参加できないこともあって、宮城ツアーだけでもぜひ参加したいと、何とかやりくりして2日間を空け、参加することにした。

 「GoodJob! Travel」や「GoodJob! センター」もその一環となっている「Good Job!プロジェクト」、さらにはこのプロジェクトを生み出した「たんぽぽの家」について、ここで紹介しておいた方がよいだろう。

 「Good Job!プロジェクト」は、障がいのある人やその周辺にあるコミュニティから、アート、デザイン、テクノロジー、福祉などの垣根をこえて生まれつつある新しい仕事のあり方を展覧会やセミナー、Webサイトなどを通して発信してきたプロジェクトだ。

 そのめざすところは、その人らしい役割を果たし社会に関わっていくこと、多様な個性や能力を発揮できる環境や仕組みをつくること、いろいろな人が出会い豊かに生きること。

 障がいのある人との協働から生まれる新たな“しごと”“はたらき方”をさまざまな形で提案していくこと(Good Job!プロジェクトのサイトから抜粋)であり、それ自体そのまま社会デザインの実践といって差し支えない。いやむしろ、社会デザインは、こうした取り組みから非常に多くを学んで、その発想と方法論と実践的研究を構築してきたといった方が正確だろう。

 ついでにいうなら、誰もが生きがいや誇り、やりがいをもって働くことのできる仕事のあり方・環境が求められている(同じくサイトから)という時代認識・社会認識はSDGsそのものといってよい。

2016年、宮城県山元町に生まれた壁画「Happyやまのもと」の説明をする田口ひろみさん(NPO法人ポラリス代表理事)
指定管理運営を受託している塩竈市杉村惇美術館でプレゼンテーションをする高田彩さん(ビルド・フルーガス代表)

Good Job!プロジェクトという社会デザイン

 現在、Good Job!プロジェクトは以下の取り組み(順不同)から構成されている。

 ①NEW TRADITIONAL 伝統工芸との相互発展

 ものづくりを通して新しい生活文化を提案し、つくる人、伝える人、使う人の関係を見直すプロジェクト。ここでも、「関係性を編み直し、活かす」社会デザインと通底するものが感じられる。

 ②GoodJob! Center 香芝 いろいろな人が集うプロジェクトの拠点

 2016年9月、設計事務所o+hの設計によりオープンした開放的な空間で、「ものをつくるところから発信する」までを一貫して行うものづくりや流通の拠点。社会デザインを具体化する空間のデザインといってよいかもしれない。

 ③Able Art Company アートを仕事につなげるエージェント

 絵画・イラスト・書などをデザインや商品に二次使用することで、障がいのある人がアートを仕事にできる環境をつくる。アーティストによる講演やワークショップも仲介。これは、アート×仕事(ビジネス)の相互乗り入れの実現とみることができる。

 ④IoTとFabと福祉 福祉と技術の全国ネットワーク

 デジタル技術を活用して、新たな仕事・働き方をつくること、心地よい暮らしの環境をつくることを目的にしたプロジェクト。いま私が、最も大きな関心を寄せているDSX(デジタル・ソーシャル・トランスフォーメーション)の模索が始まっている。

 ⑤知財学習推進プロジェクト 楽しみながら学べる知的財産権

 カードゲーム「知財でポン!」を用いて、表現を社会に発信するときに必要な考え方や、表現を守りつつ広めていく方法について学びあう。社会デザインにとって、これも今後の最重要課題の一つになってくるであろう「法の社会デザイン」につながっていくテーマで、アフターインターネット時代の文化と社会を駆動する新しい法の設計論をうたう問題提起の書、水野祐『法のデザイン―創造性とイノベーションは法によって加速する』(フィルムアート社、2017年)の問題意識とも協奏するものといえるのではないか。

 ⑥障害とアートの相談室 芸術に関する情報交換や相談場所

 素朴な疑問や不安に対して相談窓口を設置。研修(セミナー、ワークショップ)やインターンシップなどを実施し、作品や作家の調査・発信も行なう。アートがまだまだ「芸術」ということばのもつ「高尚な」響きに吞み込まれがちな日本の現状を地道に変えていくことで、社会デザインに、ロジックやエビデンス等の「束縛」から飛翔する開口部をひらく活動ともなるのではないか。

 ⑦Good Job! Travel 発見、出会い、学び、交流の旅

 ここは本稿の本題でもあるので、次回詳述したい。

 ⑧Good Job! Award/Exhibition 新しい働き方を奨励するアワード、展覧会

 今までの価値観や労働観では考えられなかった仕事・働き方を、先駆的・革新的に生みだしている人や団体をアワードで奨励し、展覧会などを通して発信する。社会デザインにとっても、一見わかりにくくなりがちな「これまでの常識や価値観を超える」仕事や働き方、さらには生き方を具現化していくことは難しいけれど喫緊の課題でもあるため、社会デザイン学会の「社会デザイン賞」などとも相通ずる目的を持った取り組みといえるだろう。

「たんぽぽの家」運動というルーツ

 これらGood Job!プロジェクトの基盤となっているのが、「たんぽぽの家」の運動であり、事業であり、活動である。

 「たんぽぽの家」は、1973年、奈良たんぽぽの会として発足し、「たんぽぽの家づくり運動」が始まった。芸術文化活動を通して、生きがいをもって生活できる、障がいのある人の拠点づくりの運動だった。76年には財団法人たんぽぽの家が設立認可され、障がいのある人の詩にメロディをのせて歌う「第1回わたぼうし音楽祭」が開催された。87年には社会福祉法人わたぼうしの会の設立認可。

 そして95年には「エイブル・アート・ムーブメント」が始まる。可能性の芸術ともいわれるエイブル・アートは、Good Job!プロジェクトを準備したムーブメントである。97年には、東京都美術館にて日本初の障がいのある人の表現を公立美術館で紹介する企画展「エイブル・アート’97 魂の対話」が開催され盛況となる。

 2004年には「たんぽぽの家アートセンターHANA」がオープン。07年には、障がいのある人のアートを、デザインを通じて社会に発信するエイブルアート・カンパニー発足。12年の「Good Job! プロジェクト」始動へとつながっていく。

 昨年、たんぽぽの家の創設者である播磨靖夫さんが、芸術振興の分野において、障がいのある人たちの芸術活動の発展に寄与したことにより、2022年度文化功労者に選ばれた。これ以前の2010年には芸術選奨文部科学大臣賞も受賞されており、たんぽぽの家~Good Job!プロジェクトの流れが創り出してきたものは名実共にその社会的評価を確立したといえるだろう。これはもちろん、播磨さんが取り組み、実現してきたことの先駆性と先見性、そしてたんぽぽの家をはじめ、これまでの運動・事業・活動を担い、支えてきた関係者・市民の地道な努力によるものだが、ここまで紹介してきた経緯に照らせば、私は社会デザイン的な一連のムーブメントの先駆者としての評価でもあると考えることができるのではないかと思う。

 それほど、先述した展開が見事なほどに、社会デザインのチャレンジとなっていることに、私はいまさらながらに、あらためて驚嘆している。私事ながら、播磨さんとは、1998年からの日本ボランティア学会の設立と運営でも声をかけていただき、長らくご一緒したが、いまから考えれば、社会デザイン学会とはまた少し異なるアプローチから、社会デザインの実践的探究に、かなり(根底的という意味で)ラディカルに切り込んだ場づくりだったと痛感する。

 むろん、一連の取り組みは、全てが戦略的あるいはロジカルに組み立てられていたわけではないと思う。むしろそれこそが正解だったはずだ。また別の機会をとらえて、そこでの人と人、人と場、場と場、等々が織りなしていた生きた糸の絡み合いを、少しずつ丁寧に解きほぐしてみたい。

 が、いまは、東日本大震災を経たうえで、これまでのムーブメントの蓄積と関係性が生み出した「GoodJob! Travel MIYAGI 2022」ツアーに立ち戻ることにしよう。

 今回のツアーでは、亘理郡山元町と塩竈市が中心的な訪問先となった。冒頭のゲスト出演者、田口ひろみさんとは山元町でお目にかかり、高田彩さんとは塩竃市でお目にかかれた。

 GoodJob! Travelは全国各地で実践される、新しい生き方、働き方に挑戦する福祉の現場を訪れ、そこに関わる地域や人の魅力を丸ごと体験するツアーで、実際に全国各地をまわるリアルツアーや、オンラインで体験できるツアーもある。ものづくりやアートに興味のある人、福祉の道を志す人、障がいの当事者やその家族、この旅を通じて学びを深めたい幅広い人たちが参加している。

 山元町と塩竃市で、田口さん、高田さん、そしてツアー参加者の皆さんと、どのような社会デザインの物語を感じながら2日間を過ごし、その体験がどのように、「おしゃべりラボ~しあわせSocial Design」の放送へとつながって行ったのか、次回中編で展開していきたい。


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第2回 GoodJob! Travelの物語(前編)

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